ガリベスの徒然なる日々

徒然な日々の中で気になった事をつらつらと記していきます

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湯気

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「お疲れ様でした」

その日は、いつもより遅く職場に残り、仕事の整理をしていた。

22時過ぎ、自宅まで1時間弱の道のりを1人で運転するのは少し辛い。疲労感もさることながら、空腹がさらにそれを増長させる。

ラーメン食べて帰るか…

独身で自炊してる身として、今から食事を作る気力もなかった。

少し遠回りになるが、ラーメン店の並ぶ町まで車で走り出した。

 

スープから立ち上る、食欲をそそらせる薫り。

湯気が眼鏡を曇らせる。

濃厚な豚骨スープと小麦の甘さが交わり、ついつい、舌鼓を打つ。

 

「ご馳走さまでした。会計をお願いします」

曇った眼鏡を拭き、レジへと足を進める。

 

ここからいつもの道のりで帰ると1時間以上かかるな。

 

既に冷めた車のカーナビを触り、ルート検索をする。

山越ルートなら1時間もかからないのか…このルートにするか。

 

あまりの疲労と満腹感に早く帰りたい一心に普段使わない山中を通る事にした。

 

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カーナビが示す通りに走り出した車は、既に山中を走っていた。

車の通りも少なく、ラジオの音も遠ざかり、ノイズが多くなる。退屈な運転だ。少し眠気も襲ってきた。まだまだ道のりは長い。

道を照らす街灯が少なくなり、徐々に蛇行が多くなる。寒空の中、今朝降った雨の影響か薄っすらと靄が掛かる。

カーブを曲がった途端、二つの光が見えた。

 

 

 

ヤバイ!!

 

力強くブレーキを踏み込んだ。

刹那、甲高い音が鳴り響く。

 

静寂の闇をエンジン音のみが支配する

 

頭をあげるとそこには、立派な角を携えた鹿がこちらを見ていた。

危なかった。この大きさの鹿だったら向こうも車も大変なことになっていた。動悸が収まるのを待つ頃合いには、鹿は去っていた。

 

再びアクセルを踏み込んだ私は、先程より更に遅いスピードで走りだした。既に0時を回ろうとしている。

こんな事ならいつも通り帰れば良かったと自分の選択にため息をついた。

 

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鹿を轢きそうになるアクシデントに見舞われながらも私は山中を降り始めていた。

自宅に近づくについて徐々に霧が深くなっていく気がした。それに伴い、更に遅くなる速度、

カーナビが示す帰宅時間は少しづつ伸びていった。

 

寒い冬の山では、たまに雲が低くかかることがある。高い山であれば、より寒い気候であればそれもより多くなる。

 

だからと言って、そんなに高くない山を走り、寒いと言えどもこんなに雲が降りるはずは無い。そう思わずにはいられない程視界が白に覆われる。

流石にそんな視界の山道を走り続ける勇気はなく、少し膨らんだ路肩に停車した。

 

なんて日だ。あと10分もすれば降りられるのに…悪態をつきながらも、煙を蒸す。

 

キュイィィィィィー

 

獣が遠くで嘶いている。

真夜中の山中で1人で聞くのは不気味でしかない。霧と白い煙が混ざり濃紺を映す。

手元に浮かぶ赤い蛍を消して、車に乗り込み、ライトをつける。

 

 

 

 

目の前に映る白い人

 

 

 

はっ

 

幽霊の正体見たり枯れ尾花。

霞の濃紺が現した幻想、脅かしやがって。

 

霞が薄い間に帰ろう。もう日付も変わってしまった。

 

 

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霧に足止めを食らいながらも山道を下りきれた。霧も殆どなくなり、人家もちらほらと見え、街灯が増えてきた。

 

霞を凪ぎ走る。漸く走ると自分の知っている道に合流できた頃には気も緩んでいた。

眠たい。

あと少しだ。

まだ霞が、残る。白い濃紺も思えば自分の気を迷いだったのだ。

 

 

 

 

 

ドン!!!

 

 

 

 

どうなった?どうした?何かを轢いた?いや、あれは霧だった。本当に?いや、確かに霧だった。はず。とりあえず確認だ。思考が加速し、飛躍し、徐々に自分自身が他者になる様に。まるで俯瞰される様に。

 

車を降りようと

ドン!!

ドン!!

ドン!!

車の下からだ。

 

ドン!

ドン!

ドン!!

巻き込んでしまった。

しかし、まだ生きてるハズだ。

直ぐに車の下をみた。

 

 

 

 

 

 

何も見えない。

スマホのライトを点けて見ると

照らした闇の中にも何も見えない。

 

車の走った後を見ても何もない。

フロントも何かが当たった様な跡もない。なんだったんだ?

もう一度車の下を照らすと、

 

 

 

 

ウァァァァ

 

 

 

 

 

 

 

 

雄叫びと共に白い靄が私の方に飛んできた。

 

私は後ずさり、尻餅をついて動けなくなった。混乱。この言葉が正しいかはわからない。筋肉が弛緩し、身体が震え、言葉も出せなかった。周囲の音が遠くなっていく。

 

どれくらいの時間、そこに座り込んでいたのだろう。震えが収まった手足を確認し、車に乗り込んだ。

 

 

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日の光と寒さに起床を促された。着替えもせずにソファに寝転んでいたせいか身体の節々が痛い。

帰宅までの記憶が曖昧だ。脳裏に焼き付いた絶叫と白い靄。寒さも相まって身体を震わした。

家に1人でいるのが居心地悪く、いつもよりもかなり早く家を出ることにした。駐車場に着き昨日の出来事が夢だと思わせたいが為、私は車のフロントを覗いた。傷はない。

だが、ボンネットに残った私の手形が虚実でない事を物語っていた。

フロントガラスに残る露をワイパーで飛ばしながら走り出した。

 

幽霊の正体見たり枯れ尾花。

枯れ尾花の正体見たり幽霊。だったのかはわからない。人の脳は疲労により幻覚や幻聴を認識させる。

科学的な根拠を考えつつ、私はあの道はもう通らないと心に決めた。

 

 

 

 

 

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